ワンピースにはポッケがないからあたしの貴重品全部持ってて

 


小学生の時、我ながら男の子のことが気になってたなと思う。ラブアンドベリーはわからなかったけど、わがままファッションガールズモードは好きだった。メゾピアノもすきだったけどやっぱりポンポネットが1番すきで、鉄棒の前回りは一度もしたことがないまま逆上がりの練習をするふりをしてた。

一年生か二年生のとき、初めて男の子のことが好きになった。どきどきしながらどうしても言いたくて、休み時間、その子がいない時にその子のランドセルに「すきです」って書いたメモを放り込んだ。今考えると恐ろしい。送り主の書かれてないラブレターほど怖いものはないと思う。

三年生に上がったら、入江(仮名)と仲良くなった。入江はかっこよくて、髪がツンツンしていて、足がでかくて、空手をやってた。足が小さかったわたしは上履きを履いたまま入江の上履きを履いて、よく2人で笑ってた。四年生になっても仲が良かった。当時のわたしは、自分で自分の機嫌をとれない奴だったから不機嫌になることもよくあって、そんなときは入江の話しかける声全部無視してた。最悪な女。

五年生。クラス替えの紙が張り出された。お互いに同じだといいねって声には出さなかったけど思っていたと思う。入江とは違うクラスになった。あのとき入江の声を無視した自分をとてもとても後悔した。

五年生にもなったら、だれがだれをすきとか、こそこそ話すのが普通になった。友達たちは「わたしはね...実はまるまるくんのことがすきで....」と可愛い声で告白してくれた。あたしは誰にも言わなかったけど、ずっと入江のことがすきだった。

入江は五年生になった途端変わった。あたしの大っ嫌いな下ネタで盛り上がる男になっちゃったのだった。うんことかちんこじゃねえよ。あんなにかわいかったのに。勝手に失望して、勝手に落ち込んで、だけどやっぱり好きだった。ずっと、三年生から。クラスが変わってからはあまり話さなくなって、あたしは隣のマンモスヤンキー中学校は嫌だと言って田舎の中高一貫校に行った。あれからなにもわからない。今でもたまに思い出すけど、一生会うことはないと思う。

一番大好きなひとはSNSで一切反応をくれない。1、2回いいね!きたことあるけど、押し間違えなんじゃないかと思っている。どんな言葉にも普遍的な返事。「すごいね!」「いいね!」「そうだよー」あたしがいくら何個もメッセージを送っても、1つか2つ、最後の言葉だけに反応する。もしあたしが犬を飼っていて、犬が勝手にあたしのスマホをつかって送信した「く○*@"ぬーナgに」にも「いいね!新しい言葉?」とか言いそう。

恋をしたいと思うけど恋ってむずかしいじゃないですか。「わたしはロランス」でもロランスとフレッド、なんだかんだいってずっとお互いに好きじゃないですか。お互い好きなのにうまくいかないことって、まあ良くあるじゃないですか。他にもっと有名な映画でわかりやすいのあるじゃないですか。映画詳しくないからいい例えできないんだけど。

ずっとわたしは入江のことが好きだったときの気持ちになりたい。なんにもなかったわけ。持ち物がポンポネットだらけの私に向かって「私立いくんでしょ?」て声変わりした声で聞いてきたときは、なんてはぐらかしたか覚えていない。

だめだったのは、たまごのなかにいたときから

 

もう5月が終わるらしい。私は何もやってない。

近くにいい川があるわけでも、いい散歩道があるわけでも、かわいいばあさんとじいさんがいるわけでもない家の周りは、本当に嫌い。人間関係はリセットされて、いつ何時でもむかついたらむかついたまま、電話できる友達がひとりいることがわかった。ほとんどこないLINEを読むのも、知らないふりしてインスタグラムを流し目するのもかなり得意になった。

ひとりでいる時間が増えて自分の人生について何度も振り返ってるけど、それを1日に何度もやって、何日もやって、あっという間に1週間が過ぎてんのばくわら。

それだったら数ページしか開いてないゴンブリッチの『芸術と幻影』を読まずに数ページめくるほうが有意義に決まってる。そんなときに飲むのは必ずアップルティーだし。

 


小さい頃から家族の前ではいわゆる"恥ずかしいこと"を避けてきたように思う。

運動会のゴリエのダンス、学習発表会の村人役、男の子と話している自分。全部恥ずかしくて、本当は全部楽しいのに隠して生きてきた。友達の前では100パー、家族の前では50パー。いつもそわそわして、運動会で定期的に私の席まで日焼け止めを塗りにくる母のことをうざがる演技。そんなことより家でお菓子食べてふざけてるほうがたのしいよなんて顔をして。

 


今はノリノリでダンスできるし、真剣に火サスの女の真似ができるし、だけど気になる男の子のことは話せない。ずっと本当がわからないし、いつまで経ってもわからないのはわかってる。

なんでもっと、お弁当に入ってるミートボールのことが好きになれなかったんだろう。あんたにわかられてたまるかって思ったときに誤魔化して鼻歌を歌うことしかできないんだろう。好きなものを馬鹿にされたとき、なんで「あんたの歯に青のりがついてても絶対教えないから」って言えなかったんだろう。自分って恥ずかしいところたくさんある。同じ話何回もしちゃってごめんね。好きな人には折り紙をあげるし、嫌いな人にはたばこを一本あげるから、わたしの「生きる」を知らん顔してて欲しい。誰にも邪魔されたくないのに誰かにかまってほしい。うまく話せないから、話したい人とは一緒に映画を観たいな。